「あかいろの思葉」【モバマス創作(関裕美)】
関ちゃんボイス実装めでてぇ、思葉と書いて「ことは」と読むらしいです。
「ことは」だけに518文字縛りです。よろしくお願いします。
秋色に染まってく街を歩きながら、新しいアクセサリーのデザインを考える。
ビーズを繋げて、飾りを増やして、少しずつ完成までの形が見えてきて、なんだか少し、足りなくて。
あと少しの足りない仕上げは、ひとりじゃきっとダメなんだ、あの人と一緒に決めなきゃ、ダメなんだ。
決めたなら、作らないと
一つ一つのビーズが重なって、繋がって、モノができていく感覚を今から想像して、楽しくなってきた。
一緒に作ったなら、それをあげなきゃ
貰ってくれるかな、貰って、くれるよね?
あの人が考えて、私が作って、最後には、あの人の手の中に戻って、それでこのアクセサリーは完成。
そういうふうに、なっているのだ。
今、この季節をいつまでも思い出せるような、変われた私と、変えたあの人を、いつでも思い出せるような、そんなアクセサリーに、なればいいな。
時間を見ると、予想より遅くなっていることに気づく、予定よりは早いけど、それでも早く着きたいのだ。
事務所で待つあの人に、着いたならまず、伝えなきゃ。
アクセサリーを作りましょうって、仕上げは貴方の手でお願いって。
言葉にすれば、少しは伝わるかな。私のこころの奥底が
なんだか今日は、いつもよりも強く言葉に思いを乗せられる。
そんな気がするんだ。
「ドリップトリップドラッググリップ」【モバマス掌編?】(一ノ瀬志希)
かなり試験的と言うか、只の怪文書になってしまいましたがまあいいよね。
香水の調合を大きく間違えて使ってる志希ちゃんの話です。
空から落ちる雨粒が水晶玉に変わったタイミングで、落ちてくる雨粒の数が脳に刻み込まれるのが止んだ。
七十六億四千二百八万と十二個の雨粒が落ちるまでに、あたしの頭は四回のリセットが必要で、その度に酷く勢いよく真下に落ちていく感覚が体感出来た。リセットから戻る度に雨粒の落ちる音は大きく大きく響くようになり、しまいには痛みを覚える程度になっていった。
雨粒が水晶玉に変わった今、今度はこれを数えるべきかと一瞬大いに思案するけれど、床に転がっていた食べかけのカシューナッツを見て考えるのを辞めることにした。
一口齧るごとに、咀嚼する音や、カシューナッツの味が深く染み込んで行くような感覚を覚えて、豆がこんなにも美味だったの知る。
美味しいものを食べた故か、涙が零れた、今見るべきは打ちっぱなしのコンクリの床ではなくて、灰色の雨空である事は全神経が理解出来ているのだけど顔が上がらない、ちぐはぐな自分の身体を理解出来ずに泣きながら笑う。
はて、同じ色にも関わらずこうも違うものかと思案していると、コンクリートの床を涙が突き抜けていくのが見えた。空に落ちていくように、あるいはここが空の上になったように、ボロボロと零れる涙は雨となって灰色のコンクリートを突き抜けていく。
外にいる人が、みんなあたしの涙を浴びていると思うと、愉快で堪らなくなって、笑いが止まらなくなる。
今だけは、あたしがかみさまなのだ。
あたしがこうして泣くことで、外は雨になる、涙が雨になって、コンクリートが空になる。
なんだか、おもしろくなってきた。
先ずは、おおよそ七十六億の涙を流すことにしようか。
「まどろみしきにゃん」【モバマス創作(一ノ瀬志希)】
眠たい志希ちゃんの話
しき、だけに490文字縛りの掌編です。多分ぴったり490文字です。
微睡む視界の中で、キミの姿を認識する。
ふわりふわりとあたりに漂うジャスミンの香りが、キミを蝕んでいる
爽やかに、潔白に咲く白いジャスミンの花言葉は「好色」
女好きなんて、アイドルのプロデューサーならあたりまえだよね。
なら、もっとその本能を剥き出してみようよ。
微睡むあたしを貴方ならどうする?
声をかけて、身体を揺らして?それだけじゃ、おもしろくないよね。
もっと触れて、もっと掴んで、あたしの知らないキミを見せてよ。
あたしを見つけた、キミが見たいから。
つまんない、なんて言わせないで、もっと深く、手繰り寄せて。
キミの香りを、もっと深く、もっと強く、この身体に刻みたいんだ。
吸い込んで、堪能したいんだ、キミだって、そうだよね?
あるいは、あたしが手を伸ばせばいいのかな。
伸ばしたその手を、キミが引き寄せて、抱き寄せてくれるといいな。
静まり返ったラボの中は、もう何の音もしなくて、ただひたすらに強い香りだけが漂っていて
あとはもう、音を加えるのはキミなんだ。
沈んでいく意識の中で、手を伸ばす音が、布の擦れる音が聞こえた。
暖かいシーツの感触に包まれて。意識が消える。
そうきたかー、まあ、いいけどね。
安部菜々「死ぬほどあなたが好きだから」
「カバー曲、ですか?」
ある日手渡された書類に書かれた、懐かしい曲名。
「あぁ〜懐かしいですねぇ・・・って、あっ、違います!えっと、あの、ウサミン星では2年くらい前に流行ったばっかりで・・・!」
「ノゥッ!!ナナはえ・い・え・ん・の!17歳です!ココリコミラクルタイプなんて番組、わかりませんからぁ!はいっ!この話はおしまいです!カバー曲の仕事、頑張りましょうねプロデューサーさん!」
慌てて書類を掴んで、その場をそそくさと立ち去る、これ以上はいけない他の娘もいるのだ。
改めて、書類を見直し曲名を確認する
一緒に渡された音源を聴きながら、もう10年以上も経っていることに気がついて、軽くショックを受ける。
そうか、もうそんなに経つのか、こうやってお仕事ができるようになって、時間が進むのが早く感じるようになったきがする。歳のせいもあるのかな、なんて自虐して笑う。
曲が終わって、ふと昔を思いだした。
10年前、私が17歳だった頃、それこそ時給800円で働いていた頃の話。
私が、安部菜々がウサミン星人になるよりも少し前の話。
ウサミン星人は、先代がいた。
誰も知らない、内緒の話
安部菜々こと、ウサミン星人は、二代目なのである。
小さいころみたアイドル声優、あんな風になりたいと思って東京に通いはじめた頃、初めて「地下アイドル」に触れた。
当時は声優やアイドルになるために養成所に通う、なんて発想も施設もお金も無くて、とりあえず「アイドル」と名のつく場所をとにかく調べているうちに、そこにたどり着いた。
アイドルは、みんなキラキラとした場所で歌って踊ると信じていた私にとって、暗いイメージのある地下という場所はなかなかショックだったけど、ノリと勢いに任せた若い単純思考の私は
「夢への近道!」
という一言に釣られて、地下アイドルの世界に足を踏み入れた。
そこで動いて活躍すれば、声優にもスカウトされると本気で思っていたのだ。
そこで出会ったのが、初代のウサミン星人、その人である。
私は一番最初のころ、正統派アイドルという形で動きたかった。
何となく、イロモノアイドルだと声優になった時に響くんじゃないかと勘違いしていた。
多分、イロモノ系の方が声優としては合っていたかもしれないけれど。
ただ、地下アイドルとはいえ新人に自由に動くことは許されなくて、ウサミン星人なんて肩書きをつけられて、いつの間にかユニットになって、先輩アイドルとセットでステージに出ることになった。
初めて会った先輩アイドルは、私よりも少し背が高くて、年齢も上で、正直いうと少し怖かった。
先輩は、ステージではほとんど完璧にウサミンを演じる人だったけど、ステージを降りたらすぐに演じるのをやめるタイプの人で、切り替えの早さに関しては他の人の群を抜いていた。
その上、地の性格はかなりサバサバしているものだから、狭い楽屋の中でも、浮いた存在になっていた。
ユニットを組んで長い間、あまり深く話したことも無いので、よく「なんでアイドルをやってるんだろう?」なんて思ったりもした。
「ダブル☆ウサミン」と名前のつけられたそんな先輩とのユニットは、私よりも先に「ウサミン星人」として活動していた先輩に、ウサミン星から増援がやってきた!という設定で活動していくことになる。
「ダブル☆ウサミンの小さい方」なんて呼ばれて、「安部菜々」として認識されることなく、小さなステージで少ない観客の前で歌って踊る。そんな日々がしばらく続いた。
欲張りな新人だった私は、思い描いていた理想とのギャップに少しずつもがき苦しんでいく。
小さなステージで歌って踊って、芽がでる様子もなく3年が過ぎた。
その間に、お客さんも店の人たちも少しずつ変わっていって、私の少し前に入った人たちもどんどん辞めていった。
私と先輩、あと一人か二人を残してみんな入れ替わってしまった。
成人してしばらく経ったころ、ある日ステージが終わった後に先輩に言われた
「ナナ、飲みに行こうか。」
「成人おめでと、奢るから好きに飲みなよ。」
成人したことは伝えてあったし、その時に軽くお祝いの言葉はかけてもらった、あまり普段の通りとかわらなかったから、あの時こうして祝ってもらえることを少しだけ不思議に思った。
バイトでも居酒屋で働いていたけれど、お客さんとして入るのは初めてだったし、お酒も初めてだった。
けど、会話の内容は今でもしっかり覚えている。
「ナナは、まだアイドル続ける?」
少し飲み進めて、お酒の味に慣れてきた頃、先輩は言った。
「菜々は…まだ続けて行こうとおもってます」
「…そっか」
そう言って、嬉しいようにも切ないようにも見える表情で先輩は笑った
その顔を見て、聞かずには、居られなかった。
「あの、センパイは続けるんですか、アイドル」
「私?私はねー、うん、続けるよ、うん」
意外なほどに軽い返事で拍子抜けした私を尻目に、先輩は続けた。
「自分の話で悪いんだけど、私すっごい人見知りなんだ、地下アイドルになっても、今でも。」
「親からも、地下アイドルなんて辞めろって言われ続けてるけど、今のところ『ウサミン星人』でいる間は、人見知りの私は居なくなってくれるからさ、嫌な自分を見えなくして、少しだけど人も喜ばせて、狭いけどステージに立てて、それが楽しくてさ。もちろん、大きいステージにも立ちたいけどね」
「ナナとユニットってなった時、正直ゲッと思ったよね、なんども言うけど人見知りだし、うまくやってける自信もなかった、ステージの自分と…ウサミン星人は私じゃないからさ。」
「だから、3年も一緒にやっててくれて、本当にありがとうって、思ってる、ごめんね成人祝いの席のつもりなのにこんな話ししちゃって。」
今までの3年間、初めて触れた先輩の中身。
なんだか、思っていたよりもずっと私と先輩が近いことを知れて、嬉しく思えた。
けど、ユニットとして仲良くなっても現実が変わっていくことはない。
今まで通り、小さなステージで、馴染みのファンと、変わらない日々が続いてく
少し変わったと言うならば、先輩と飲んだり遊んだりすることが多くなった
愚痴を言ったり、たまにもらえる店外の仕事に喜んだり。
ある日は、cdを持って来て聴かせてくれて
「芸人が歌えるなら、私らも歌えるよ」
なんて言って笑ったり。
それでもアイドルとして、次へ進んでく様子は何もなかった。
ただ、なんとなく、これでもいいかも、なんて思えてしまったのだ。
時間はゆっくりでもしっかり進んでいく
変わらないものなんて何もないことを、もう少し先で私は思い知ることになる。
気がついた頃には、さらに3年経っていた
店はメイド喫茶と形を変えて、時代に合わせて服装も変えて、かつての名残のステージでは、私たちが歌っている
私たちはあいも変わらずウサミン星人だった。
馴染みのお客さんも少しずつ増えて、このままの状態がずっと続くと思っていた。
ある日のこと、先輩と店長が話しているのを見かけた。
その時は何とも思っていなかったけれど、今思えばあの時に少しでも察せたなら少しは何かが変わったのかもしれない
…いや、そんなことはないか。
その日以降、少しずつ先輩の元気が無くなっていった、長く付き合っているからこそ、何となく気づくことができた。
そして、ついにその日が来たのである。
家にいると、電話がかかってきた、先輩からの電話
「ナナ、ちょっと今大丈夫?」
この電話が、最後だった
「私、お店辞めるね」
たった一言、それだけで足元がぐらつくくらいにショックをうけた
「えっ、センパイ、いきなり」
どうしてと、言うよりも先に先輩が続ける
「お父さん、倒れちゃって、今は安定してるけど、割とギリギリまで行っちゃって。」
「お見舞いにいったらさなんて言われたと思う?『地下アイドルなんてやめてくれ』だよ?
ついにお願いされちゃった」
「死ぬ寸前までいってんのにさ、娘に頼むのが孫の顔とかじゃなくて〇〇辞めろだなんてさ」
「そんなこと言われちゃったらさ、もう、どうしようもないじゃん…」
「私のわがままで出てって初めて、ずっと地下でテレビにも出れてなくて」
「そんなの、親からしたら、ダメだよねえ」
「ごめんね、ナナ、今まで、付き合ってくれて」
何も、言えなかった。
目をそらして来た、自分の進んでいる先を見ているようで
「センパイ…」
「ごめんね、ウサミン星人、1人になっちゃうね」
「あの、私は、菜々は」
「大丈夫、私の今は、ナナの進む道とは違うもん」
突然、そういった
心の中を見透かされたようだった
「私は、ウサミンって皮をかぶるためだけにアイドルしてた、けど、ナナは違うよ、ちゃんとなりたいものがあるもん」
「大丈夫、今からでも何とかなるよ、理由を持って続けたなら、きっと。」
「セン、パイ・・・」
「泣かないで、ナナは笑って。」
「は”い”!」
「じゃあ、ごめんね、ウサミン」
「あと、ありがとう」
電話が切れた、私は、涙を流して、言われた通りに、笑った。
ありがとうございましたと、受話器に向かって呟いて。
次の日、先輩はお店に来なかった。
そうして、ウサミンは1人に。
安部菜々が、ウサミンになったのである。
そして、今、ウサミンはテレビで、地上で歌っている。
先輩は、見ているだろうか。
あれから、先輩とは一度も話していない、連絡が取れない状態だった。
ウサミンは、大丈夫です、あなたが作ったウサミンは、立派なアイドルになりましたよ。
前よりも、ずっと多くの人を喜ばせる存在になりました。
なんて、それだけでも伝わってくれればいいな。
この思い出だけは、誰にも言わないでとっておこう、
私が、ウサミンを好きでいられるように、大事にしまっておきたいのだ。
私は、ウサミン星人が死ぬほど好きだから。
なんてね。