超高密度人口区域(α)

つよくなりたいぼくごさい

【創作】果実

坂の上からオレンジが転がる、程よく熟してしまったそれは、映画のようにポンポンとは転がっていかなくてべちゃりべチャリと落ちていく。灰色の石畳に不釣り合いな橙色の斑点をつけながら転がり落ちるオレンジは、半分削れてやがて止まった。
これで千と百二十六回目、三百と十一個のオレンジを無駄にした。なんてこった、今回もダメかよ。
手すりを滑って坂を下る、半分に擦り切れたオレンジを拾い上げて、砂利を払って口へ運ぶ。苦くてジャリついて土の味がするそれを、青春の味だとバカみたいなごまかし方をしながら飲み込んだ。
中学生の頃、テレビで見た「道に落としたオレンジを拾い上げるような運命の出会い」に憧れて、オレンジを放り投げるようになった、まぎれもない馬鹿な真似は幾千月に渡って行われ、ありえないとわかっていても高校生の最後の春、制服を脱ぐはずの今日その日まで続いてしまった。放り投げられたオレンジの恨みを表すかの如く、最後の最後までオレンジを拾い上げる運命の殿方は現れずじまいで、ジャリついた口の中に広がる酸味とえぐみがこの数年間の無意味さを示してくる。
地面に広がる斑点は、雨に流されては消えていく、この手すりを滑り落ちることももうなくなる、オレンジを放り投げるのも、今日で最後、そう考えると、この馬鹿な迷惑行為もいとおしく思える、そういうことにして運命の人が現れなかった事実を忘れることにしよう。
ひとくち、また一口と最後の果実が減っていく、ジャリついていた部分を食べきって甘酸っぱい部分だけが少し残った。べとついた口の周りを制服の袖で拭って、最後の一口を放り込む、ああ不味い、これが青春の味だったというのか、ひどい話だ。
もたれかかった壁から離れ、数年通った坂道に背を向ける。
さらば青春、一人呟き少し離れたその瞬間、ぽーんぽーんと子気味いい、あまりに望んでいたあの音が聞こえた。
振り返って、転がってきたオレンジを拾い、坂の上に顔を上げる。
あまりにきらきらと輝く、希望に満ちた幼いその顔と、拾い上げてしまったオレンジを見て、ふたつのことを理解した。

ひとつは、驚くべきことに誰かにとっての運命の人こそが私であることと
もうひとつは、坂の上の奴もバカだってことだ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は百合だと思って書いたんですけどね、久々すぎて文章の書き方忘れたよね。

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