超高密度人口区域(α)

つよくなりたいぼくごさい

「すみません、脳みそ混ざっちゃいました。」 【創作】

 

 

 

少女が空から落ちてくる

大体は飛行石やら魔法の力やらで減速しながら落ちてきたリ
ふしぎなちからで奇跡的に怪我をしなかったり
とにかく、危険な事態になることはないと思う。

ただ、それはあくまでファンタジーで、
現実の世界で、ビル4階分の高さから落ちてきた少女に激突したなら
少なくとも無事では済まない、

僕の場合は、死んだ。
そしてどういうわけだか生き返った。


自分の頭が砕ける音をきいた、
死んだと思って目を開けると、血まみれの地面と服
そして同じく血まみれの制服をまとった少女がいて、必死に頭を下げている

どうなってんだこりゃ


「ごめんなさい、あなた一回死んじゃいました。」

泣きじゃくりながら少女が言う

「意味わかんないと思うんですけど、よく聞いてください」

「私の脳みそとあなたの脳みそ、まざっちゃったみたいです」

 

僕が言葉を発する隙も与えずに、若干うわずった声で少女は話し続ける。

「私、死ねないんですよ」

「もう何回もここから飛び降りて、そのたびに砕けてはもとに戻って」

「そのうち自分の体がどうやって元に戻るのか見えるようになって」

「そして、さっきぶつかったとき見ちゃったんです」

「あなたとわたし、ぐちゃぐちゃに混ざってくの」

「多分、あなたももう死ねないんじゃないかと思います」

「変なことに巻き込んじゃて、ごめんなさい」

「本当に…ごめんなさい……」


何か話そうとしても、何も言えない
それどころかよくわからない情報が頭の中を回ってく

見たことのない部屋、教室、人物、出来事

おそらく、「脳みそがまざった」のは本当の事ではないかと思う
自分のほかに、もう一人分の別の記憶がある感覚
数分黙って、耐えられなくなった僕は吐いた


「あなたの記憶を少しだけ知っちゃいました、ここにいた理由も」

木陰で吐いた後の口を袖で拭った僕に向かって少女は言う

「せめてもの罪滅ぼしに、あなたを殺す手伝いをさせてください。」

少し考えて、僕は言った

「じゃあ、よろしく頼むよ」

少女は、すこしだけ微笑んだ

「じゃあ、これから死ぬまでよろしくお願いします、スズミさん」

「こちらこそよろしく、ミズキさん」

名乗らなくても名前がわかったのは、
やっぱり脳みそがまざっているからだろうな、と僕は思った


翌々日、彼女の提案で隣町のゲームセンターにいた

「ゲームセンターじゃ話すのには向いてないんじゃ」

「だいじょうぶですよ、こっちに来てください」

向かった先は、ゲーセンの隅にひっそりと設置されてたカラオケボックスだった
たしかに、危ない話をするには最適かもしれない

「じゃあ、多分わかりきってないと思うので、状況を整理しましょう。」

カラオケボックスの中は、案外しっかり防音されていて、少し寒かった
ミニスカートで寒くないかと見ていたら警戒された


「死ねない私の血やら脳みそやらがまざって、あなたは多分死ねない体になった」

「ここまではいいですよね?」

ぶっちゃけたところ、そこがいちばんわからない

「脳みそがまざるところまではわかってるし実感もあるよ」
「けど本当に死なないかがわからないんだろ?あくまでも予想であって」

「まあ、確かにそうですけどね、試しに死んでみたりとかはしなかったんですか?」

「流石に『死ねない体か、一遍死んでみるか!』とはならないよ」

「一回死のうとしてあの廃ビルにきて、実際一度死んでるんですからいいじゃないですか」


そうなのだ、僕は、死ぬためにあのビルへ行ったのだった。
就職難に親友の失踪、両親の離婚やバイト先のパワハラなど、
理由はありきたりであったので、あまり知られたくはなかったが

特に親友の失踪が痛かった
彼の失踪以来、これまで膨らんでいた『死』の妄想が爆発して、2日ほどで自殺を選んだ、その結果がこれだ

「もう死ぬ気がないなら、やめますが?」

「いや、頼むよ」

実のところ、この二日で僕の身の回りの状況は悪化していた

血まみれで家に帰っているところを、周辺住民に目撃され通報されたらしく
サイレンを鳴らしながら僕に近づいてきた
捕まるわけにもいかなかったので、家に入った瞬間玄関の施錠をしに来た父と目が合う
外で鳴り響くサイレンと逃げるように入ってきた息子を見て何かを察したらしく、たたき出された

数分玄関先で待っていたところ、窓から投げ捨てるように渡された大きめのリュックサックと一枚のメモ

曰く「離婚も決まり、家も売ることにしました
   ニ十万と、ある程度生活できるものを入れてある
   本当はもう少ししっかり話すつもりだった
   けれどそれも無理そうだ、あとは自分で頑張れ」

流石にあんまりだと思う

とりあえずはビジネスホテルに泊まることで難をしのいではいるけれど、長くは持たない
バイトもやめて、金も少なくはないが多いわけでもない

できることなら、さっさと死んでしまいたい

「ちょっと、スズミさん?」

「ん、ああ、うん何だっけ」

「本当に死なないか、確かめようって話ですよ、なんでこの短時間で記憶が飛ぶんですか」

「ごめん」

「で、ちょっとおなか出してもらっていいですか?」

「…おなか?何で?」

「いや、まあ、触診みたいなもんですよ、いいじゃないですか」

「いやまあいいんだけどさ」

そういって服をめくりあげて腹を見せる
女子高生の前で服をたくし上げるのも何となくいやらしいな…と思っていると
おもむろにミズキの細い指が僕の腹をなぞり
懐から取り出したナイフで
僕の腹を
切った

は?

相当深く、長く切り込んだらしく、恐ろしい勢いで血が噴き出してくる
僕はと言えばあまりにも想定外で、一言も発さず、動かず、呆然としていた

「あー、大丈夫ですか?」

ミズキに問いかけられるも、一切の思考が追い付いてこない
そうしてる間にも血は流れるし、赤の隙間にピンク色のごろっとしたものが見えてきた

「あっ大丈夫みたいですね」

どう判断したのかは知らないが、そう告げてくる

「ど…こが……大丈夫…」

「でももう塞がり始めてますよ、傷口見てください」

冗談かと思いたい言葉が飛び出てくる
傷口を確認したい気持ちもあるが、もともとグロが得意でない身としては、これ以上ひどいものを見たくはなかった
この時点で卒倒してないのが不思議なほどで

相当深く、長く切り込んだらしく、恐ろしい勢いで血が噴き出してくる
僕はと言えばあまりにも想定外で、一言も発さず、動かず、呆然としていた

「あー、大丈夫ですか?」

ミズキに問いかけられるも、一切の思考が追い付いてこない
そうしてる間にも血は流れるし、赤の隙間にピンク色のごろっとしたものが見えてきた

「あっ大丈夫みたいですね」

どう判断したのかは知らないが、そう告げてくる

「ど…こが……大丈夫…」

「でももう塞がり始めてますよ、傷口見てください」

冗談かと思いたい言葉が飛び出てくる
傷口を確認したい気持ちもあるが、もともとグロが得意でない身としては、これ以上ひどいものを見たくはなかった
この時点で卒倒してないのが不思議なほどで

「すみません、怒ってます?」

「…いや、大丈夫、怒ってはない」

「いろいろ考えてみて、一番手っ取り早く実感がわくかなって思って
 もしそれで死んでも目的は達成ですしね」

「流石に無茶をしすぎだろ」

「大丈夫ですよ、どうせ先も後もないんです、私もあなたも」

「この血まみれのカラオケボックスはどうするんだよ、それに、服も」

「部屋はほっときましょう、どうせ二度は来ませんし、服は用意しておきました」

いくら死なないとはいえ腹を裂かれた後に「服がもったいない」と最初に思えるあたり
大分僕もねじが外れかけてるらしい

結局その日は服を着替えて店を出た
曰く「死なないのを確認さえできればよかった」らしい
それならあんなショッキングな殺し方しなくても、とは思うが、口には出さなかった

次に会う約束と、連絡先を交換して、ミズキと別れた後、ホテルに帰って情報を整理した
・僕とミズキは死なない
・理由はわからない
・最初に死んだ時がきっかけで脳がまざった
・脳がまざって互いの記憶が少しだけある

そういえば最後の「互いの記憶」はどこまで影響するんだろうか
記憶だけがまざったのか、趣味嗜好までまざるのか
僕自身はこれと言った趣味も、好きな物もなかったので、向こうは大丈夫だろうけど


向こうはどうだか知らないけれど、少なくとも僕はミズキとしての記憶は知らないようにしている
プライバシー云々もそうだけれど、最初のフラッシュバックで覗き見た限り、ロクな記憶ではなさそうだった
そんなろくでもないものをみて自分で凹むくらいなら、見ない方がいいとさえ思ったから
恐らく向こうもそう思っていることを願う

一週間に3度程度、ミズキと会う
そのたびにあらゆる手段をもって殺される
殴られ、つるされ、沈められ、潰され
痛みもなく、きれいに治るとは言え、あまりいい気分ではなかったが、しょうがない

そんなこんなで一か月がつき、殺されるたびに減る服の代金などで、ついにホテルの金が尽きようとしていた

油断していた、なんだかんだであっさり死ぬと思っていたが、しぶとい
この一か月で手にしたものと言えば、ミズキとの微妙な友情関係くらいである
服も金もただ闇雲に減らしていくだけであった、今更バイトもぶっちゃけしたくない

金が尽きたことをミズキに話してみると

「次は野たれ死んでみましょうか」

と言われた、硫酸の直接注射で死なない体がその程度で死ぬわけないとも思ったし
何より、贅沢かもしれないが、野垂れ死には嫌だった

「それなら、私の家に来ますか?」

このセリフを言われたときは、ミズキが女神様にも見えた
実際は死神であるが

ミズキは一人暮らしだった

一人暮らしの女子高生の家に無職の男が居候をする

正直拒否感も大きいが生きるためには仕方がなかった

死ぬために生きるのに生きるのが大変ってのは、もはや自分で何を言ってるのかわからない

あと、異常なほどに部屋の中はごちゃごちゃしていた

汚いわけではない、ほこりだとかカビだとかゴミはほとんど見当たらない

単純に、ものが多い

壁の一面を埋める本棚にはCD、DVD、漫画に小説が何の規則性もなく置かれていて
その本棚の前に折りたたみ式のベッドがあって、向かいの壁にはテレビにスピーカー
蓄音機型のプレーヤーになぜかタイプライターと発泡スチロールでできたマネキンの首
壁には随分と古い刀とこれまた妙に古いモデルガンがかけられていた
窓側には何かが植えられているプランナーと、カビだらけで生き物が見えない水槽と何もいない虫かご
真ん中の机の上には画材やら携帯ゲームが置いてあった。

正直、人が二人暮らすほどのスペースは見当たらない

「真ん中の机をずらせばいいんですよ」と言ってずらそうとした、が

そもそもその机が部屋に不釣り合いなほどに大きいのもあって、少しずらすだけでものにぶつかった

結局、机の下で寝ることになった


一緒に暮らすことで記憶にはない彼女の性格が見えるかとは思ったけども、そんなことはなかった

僕が起きる前に学校へ向かい、帰ってくれば風呂場で僕を殺しにかかる

必要以上のコミュニケーションはとらないし、とってくれない。

冗談には少しは笑ってくれるけれど、下ネタは嫌いらしく、言った次の日にはドリルで局部

をえぐられた、二度と言うまい

何もわからず殺され続けて、ふわふわと毎日が過ぎていた。

気づけば、二か月も立っていた


「どうにもなりませんねえ」

珍しいことに、弱音をはくミズキがいた

「おおよそあらゆる方法を尽くしてはいるんですけどね」

多分僕がなかなか死なないことを嘆いているんだろう

「そうそう一筋縄ではいかないと思ってはいましたが、流石に疲れてきちゃいました」

そりゃあそうだろう

これまでの二か月、それこそ「どんな手を使ってでも」僕を殺そうとしてくれた

刺殺、絞殺、圧殺、滅殺、溺殺、封殺、轢殺、薬殺、毒殺、銃殺、撲殺、斬殺、挟殺

女子高生がやるべき作業ではないようなこともたくさんやった、むろん僕もできる限り手伝ってはいたけれど、それでもつらいだろう

 

「明日は少しお休みしましょうか」

数分経って肉体も回復した僕に、ミズキは言った

「ちょうど、明日はおやすみですから、お出かけでもしましょうか」

「私のためにも、引きこもりの自殺志願者さんのためにも、ね?」

これまた珍しく痛烈な皮肉をぶつけてきた彼女の、年相応の笑顔が、少し可愛くみえた


彼女の家に住み始めてからは、深夜帯にしか出歩かなかった

ただでさえ、彼女の部屋には娯楽がある、映画に音楽、漫画に小説、正直なところ、出歩く必要もない

それでもたまにはジャンキーなフードが欲しくなる、かといって家を留守にすることも憚られる気がしたので、彼女が寝た後に、コンビニに行くことにしていた

そんな二か月も直射に当たっていなかった僕が外に出たら、予想どうりの辛さがあった

季節は、秋も暮れて冬に差し掛かった時期だった、乾燥して張り詰めた空気と、きれいな秋晴れの太陽が渾然一体となって僕を襲ってくる。


「大丈夫ですか?」

「ん、あぁ平気」

「なら、いいんですけど」

僕とミズキは水族館にいた

水族館と言っても、目当てがペンギン、アザラシ、ホッキョクグマなんかだから半分くらいは屋外の気分でもある

かわいらしく愛想をふりまく動物たちを見ながら、彼女はほとんどいつもと変わらないような顔をして歩いていた

変わらないように見えて、内心ははしゃいでいるようではあるけれど


同じ空間を、ミズキが満足するまで行き来を繰り返して気づけば夕方になっていた

そろそろ帰ろうかと声をかけると、一瞬考えたようにして言った

「最期に、観覧車に乗りませんか?」


水族館の横に観覧車はつきものだとは思っていたが、そこの観覧車は一味違った

なにせ売り文句が「日本最古!」である、遠くからならまあいいが、近くで見ると動くのか怪しいほどにボロイ、そのせいで、人もほとんど乗らない

二十数年この町で生きて、水族館にも何度も来た、

それでも初めて乗った観覧車は、わずかに体を揺らすだけで軋んだ音を鳴らす
塗装はかろうじて塗られていたが、あちこち金属が露出して危険で、尻も痛い

こんなありさまであることはミズキも知っていただろうに


「キレイな夕日ですね」

「まだ三時過ぎなのに、はやいもんだね」

「・・・もうすぐ冬ですから」
ミズキが続ける
「知ってますか?あれからもうすぐ三か月も経つんですよ?」

「知ってるよ」

「されど三か月、けど、高校生の私にとっては結構長いものなんですよ、知ってました?」

「それは知らなかった」

「あなたと会って三か月、一緒に住んで二か月ちょっと、おそらく貴方にとって、不愛想な未成年と過ごすのはつらいものがあったとは思います」

「・・・割と楽しんでたよ」

「無理はしなくていいですよ、
・・・それでも私にとっては、『誰かと過ごす』それだけで嬉しくて、あなたを一日に一度殺すように痛めつけていくのが、だんだんと辛くなってきちゃったんです」

彼女は続ける

「こんな目に合わせておいて、毎日のように痛めつけて、異常なほど身勝手なのはわかってます」

「それでも、それでも、私の初恋なんです」

「お願いします」

「もう少しだけ、もうちょっとの間だけ」

「私と一緒にいてくれませんか?」


今までに見たことがないほどに「弱った」顔で、ミズキは僕に告白した

僕は、しっかりと彼女を見据えて「はい」と答えた


こうして世に一組「おかしい」カップルが出来上がった


観覧車の日以降、僕が殺されることもなくなった

かといって、劇的に何かが変わるわけでもなく、ただ少しだけ、会話が増えただけ

あと僕は家事をするようになり、料理の腕が少し上がったりもした。

ホントは働こうかと思ったけれど

「もうちょっと休んでた方がいいです」と止められた


特に何事もないまま、月日は過ぎていった

恐ろしく心が穏やかで、緩やかな日々

かつて死を望んだ人々とは思えないほどに

かつて死を望んだ人々が、皮肉にも一生このままを願いながら

けど、物事には終わりがある

僕らの終わり方は、あまりにも唐突で、まぬけで、不幸な終わり方だった。


正月も終わり、だらだらと過ごしていたある日、ふと昔の話をすることになった

脳みそが混ざったおかげで、話さずとも知っていたはずの互いの昔話

いや、知っていると思い込んでいたんだろう、少なくとも、僕は

彼女の話は、比較的普通に終わった

小学生のころ、両親が詐欺行為で被害者から殺さたこと

詐欺師の娘としていじめがあったこと

金だけは残したので今までこの金で暮らしていること

ある程度わかってはいたが、それでも壮絶な過去だった

ただ、いじめは中学までで、今は割と穏やからしい

それでも自殺を続けていた理由は
リストカットみたいなもの」だそうだ


そして僕が話した、僕が知っている、僕の昔話を

パワハラや、家族の不仲までは彼女も普通に聞いていた

けれど、「親友が失踪」と話すと、首をかしげて、言った

「あの・・・スズミさんの親友って、『スズミさんが不注意から殺した』んじゃないんですか・・・?」

それを聞いたとき、僕は珍しく怒った、そんなはずはないと、彼女が訂正し、謝っても、何度も否定した

そのうち、否定するたびに膨らんでいく、己への不信感に気づいた

そして、反抗するような彼女の一言で、全部気づいた

「じゃあ、この記憶は、まったく違う人のものをどっかから共有でもしてきたんですか?」


「・・・・・・あぁ・・・」

「へ?」

「そうかぁ、そうだったんだ・・・」

「ちょ、ちょっと大丈夫ですか?」

「俺らが脳みそまざっちゃって、てっきり記憶を『共有』したと思ってた」
「けど実際は違うんだ互いに記憶を『置いて来た』んだ」
「俺も、ミズキも、些細な部分だけが抜けてるから気づかなかったんだよ」
「それに、些細なきっかけがあれば思い出せる」
「だから気づかなかったんだ・・・」

「一度、落ち着いた方が・・・」

「ダメだ・・・思い出しちまった・・・」

「・・・」

「俺は・・・」

僕は、ふと立ち上がり、部屋を出た

呼びかけるミズキを無視して


親友が死んだ、理由は僕

そこの間にどれだけの不運があっても、自分が原因で人が死ぬ

それが十数年来の親友ならばなおさらに、死を決意してもおかしくない


あてもなく街をぶらついて、ぶらついて、

帰ることも怖くなって、あれほど嫌だった野垂れ死にを選択しようとしたとき

「スズミさん!」

と、聞き覚えのある声がした

次の瞬間、体が爆ぜる音がした


クラクションの音、衝撃、衝突音、ぱき、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぱきぱき、がりっ

三か月ぶりの、死の実感だった。

これで、終わり?


少女が空から落ちてくる

大体は飛行石やら魔法の力やらで減速しながら落ちてきたリ
ふしぎなちからで奇跡的に怪我をしなかったり
とにかく、危険な事態になることはないと思う。

ただ、それはあくまでファンタジーで、
現実の世界で、ビル4階分の高さから落ちてきた少女に激突したなら
少なくとも無事では済まない、

僕の場合は、死んだ。
そしてどういうわけだか生き返った。

ダンプに轢かれたせいで、記憶を失った僕は、親族を名乗る女子高生に連れられて廃ビルに来た

でもまさか巻き込み自殺を食らうとは思わなかったし、僕が生き返った「詳しい理由」もわからない

けれど、必要最低限の記憶は戻ったようだ

 

「すみません、脳みそまざっちゃいました。」


毅然とした態度で、血まみれの少女は言う


「でもこれで思い出しましたよね?」